福花園種苗株式会社

花のネットワークで豊かな時代を創造、
たゆまぬ努力が活力を生み、国際的に通用する商品開発を目指す。

梅雨の中休みとはいえ射るような強い日差しの7月初頭のある朝、名古屋市内西大須交差点の南西、名古屋の花き販売企業が集積する地域内にある福花園種苗株式会社本社を訪問し、吉田豊社長と岡田昌之生産技術担当にお話を伺いました。同社は、「人々の感覚に近い、人々の夢に身近な、多彩な花を育て、花が与えてくれる例えようのない満足感・幸福感を広げ、生活に潤いを提供する」ことを目標に、多彩な花の技術開発に取り組む企業です。

創業事始

当社は、大正6年に地域の華道宗家へ花きの供給を主目的に南陽町で創業したと聞いており、太平洋戦争の前には、冬場に目立った植物のない旧満州への葉牡丹(アブラナ科の耐寒性に優れた観葉植物)の輸出等で発展し、戦後においては現在地に移転すると同時に、アルストロメリア(南アメリカ原産の百合水仙とも呼ばれる鮮やかな花の植物)園芸品種の我が国への導入、ハイブリッドスターチス(イソマツ科の植物で小振りの沢山の花をつける主として切花用の植物)の新種開発等をインパクトとして成長し、育種や品種改良のための研究開発に重点を置く種苗企業として現在に至っています。

基幹となる技術は...


主力商品であるアルストロメリア(左)とスターチス(右)の品種例

植物の選別・交配による品種改良は古くからなされており、園芸用の花きにおいても、(花の形、色、大きさ、数、継続期間などで)よりアピール力の強い花を実現するため、多くの努力がなされてきました。例えば、今が最盛期の鉄砲百合を例に取ってみても、花の中に水がたまると腐りやすくなるため、ほとんどの自然自生種において花は横を向いて咲きます。しかし園芸種となると話は別で、よりアピール力の強い、上向きに咲く花が市場で求められるため、突然変異により発生した種を選別し、交配を重ねることにより品種改良が進んできました。その一方で、園芸品種としては育てやすく生産性が高いこと、病気や気候変動等に強いこと等も求められます。当社では、三重県四日市や長野県小諸に所有する農場において、こうした選別と交配による品種改良を実施する一方、最近は植物バイオ技術を活用した品種改良も実施しています。

その一例として、先ほどお話したハイブリッドスターチスにも適用されている技術として、メリクロン苗の生産を昭和50年代から実施しています。メリクロンとは、メリステム(頂端分裂組織)とクローン(同一遺伝子個体)を併せた造語で、植物の茎の先端部分の細胞分裂が活発な細胞を取り出し、培養することで同一の遺伝子をもった苗として作成する技術であり、園芸品種としてより優れた遺伝子配列をもった個体を利用することで、アピール力のある花をより高い生産性をもって実現することが可能となりました。

また近年では、より鮮やかな発色を実現するため、ルシフェラーゼ系の発光酵素を植物に導入し、遺伝子発現によるタンパク質の生成で花が蛍光発光する観賞用植物の研究を愛知県農業総合試験場と共同で実施し、成果を得ています。

高い顧客満足度を得るためには...

当社の顧客の多くは花きの生産農家であり、愛知県は全国の花き生産の約20%を占める最大産地ではありますが、愛知県ばかりでなく、全国の約4000軒の契約農家へ種苗を供給しております。こうした生産農家の多くは、数反(数十アール)程度の土地で、年3回のロー-テーションで播種・植付け、育成、収穫・出荷を繰り返しており、種苗の提供者としては、種苗・育種のノウハウの提供や技術指導ばかりでなく、「どんな花きの商品価値が高いか」、「どこで何が必要とされているか」等の市場における最新情報を提供できることが重要と考えています。そのため当社では、花き卸売市場の機能を関連会社に持つことで、他の卸売市場や農協等の動向情報も含めた「花のネットワーク」を構成し、広く情報の集約を行って対応を図っています。

一概に種苗といっても花きの種類は多く、扱うアイテムの数はかなりの数に上りますが、近年の動向としては、発芽率の問題がある種子よりも、より生産性が求められることで苗の比率が増える傾向にあり、現在では種子・球根で50%、苗で50%という状況にあります。もちろん種子には低コストという大きなメリットがあり、より定着率を高めるため、微細な種子を水溶性の溶剤でコートし、覆土をせずに播種するペレット種子や、水和ゲルを冷凍乾燥したゲル被覆種子としても提供し、顧客の便宜を図っています。

インターネット時代の国際戦略としては...

花きの生産は農業であり、自然条件の影響が大きく、例えば平均気温が1℃違うと成育状況は大きく異なるため、必要時期に合致させた提供が困難という事態も発生してしまいます。その影響を最小とするためには、国内ばかりでなく世界的なレベルで、不足する量は供給可能な地域から供給するという体制を構築することが必要となります。例えば5月の母の日の前には、市場でカーネーションが大量に求められますが、その全量を国産でまかなうことはリスクが大きく、価格の高騰や暴落を招かないためにも花きの輸出入は増えており、当社でも昭和30年代から世界動向に注目した貿易業務を実施して参りました。

その一方でインターネット時代には、個人のレベルでも新種開発やその提供情報を世界に向けて発信することが可能であり、当社としては国内外のより精度が高く有益な情報を顧客に提供できるよう努力していく所存です。

新たな植物の可能性の実現のために...


高さ10cm程度の容器内で咲くマナフラワー(ユーストマ)

花の持つ魅力をより多くの人に知ってもらうため、当社では植物の世話を一切しなくても、発芽から開花に至る全ての過程を小型ガラス容器内で実現する、「マナフラワー」と呼ぶボトルフラワーを商品化しております。これはユーストマ(トルコギキョウとも呼ばれるリンドウ科の植物)などの矮性の鉢物用品種を、播種後に無通気条件下での無菌培養や植物体通気条件下での無菌培養等を組合せることで実現できるものであり、先に述べた愛知県農業総合試験場との共同研究で開発し、特許を取得しております。さらにその後、この技術をサボテンや観葉植物に応用した「マナリーフ」も市販しております。

当社では、社内活性化の一番の策として新品種開発を促進しており、そのためには産学連携を含めた各方面との連携が必須と考え、今後も可能な限り実施していく所存です。

東北地方の農業の復興には...

3月に発生した東日本大震災における津波と原発事故は、東北地方の農業に大きな被害を与え、塩水をかぶった土地の再生はそう困難でないものの、大量に撒き散らされた放射性物質は、食物となる農産物ばかりでなく、花き等の農産物に対しても、長期間に亘って著しい影響を与えるものと憂慮されます。東北地方の復興のためには、農業用地の除染も必須であり、早急に実現されるよう国民的な理解が得られることを強く望んでおります。

会社概要(取材当時)
  • 社名:福花園種苗株式会社
  • 創業:1917年12月1日
  • 資本金:7,000万円
  • 取締役社長:吉田 豊
  • 従業員:102名
  • 事業内容:花き種苗の生産販売およびその関連事業
  • 本社:名古屋市中区松原二丁目9-29 TEL(052)321-5541