三井食品工業株式会社

地域の特産野菜でおいしさの提供、3次元(鮮度・伝統・流通)の信頼で漬物文化を担う。

 立春間近とはいえ大雪の日の午後、名神高速道一宮インターチェンジの北北東、約1kmにある三井食品工業株式会社本社を訪問し、岩田孝逸社長にお話を伺いました。同社は、鮮度にこだわった浅漬けや、昔ながらの伝統の味にこだわった古漬けという漬物の製造と、自社製品ばかりでなく全国の漬物メーカーと提携した、各地の漬物を食卓に届ける流通事業に取り組む企業です。

創業開始

 当社は、現在の一宮市丹陽町で、大正14年に岩田米逸商店として漬物製造業を創業したのが始まりです。戦後には法人化する一方、近隣の青果市場等で漬物の販売を実施していましたが、昭和30年代に、地域で冬場の千両ナスの温室栽培に取り組む農家で作る研究会の協力を得、ナスの浅漬けを商品化して好評を得ました。その後、高度成長期に本社工場の現在地(一宮市三ツ井)への移転、三重県明和町に新工場(伊勢工場)の建設、三井食品工業への社名変更等を実施し、漬物では全国初のJAS(日本農林規格)工場認定(農産酢づけ類)を取得したことを契機に成長して、地域の特産野菜を活用した漬物のおいしさを消費者に提供する企業として現在に至っています。

基幹となる技術は・・・

 漬物は発酵食品であり、乳酸菌の作用で野菜のもつおいしさを別次元に転換した機能性食品であり、発酵時間の長さで浅漬けと古漬けに大別されます。当社では生産ベースで、浅漬けが6割、古漬けが4割という状況です。
 浅漬け食品は本社工場を中心に生産しており、通常、定低温(2℃程度)で発酵速度を抑え、3日ほど漬けることでおいしさを醸成しています。使用する野菜の種類としては、先に述べた千両ナスの浅漬けは、生産量では白菜漬けに次ぎますが、現在においても年産600トンと全国ナンバーワンを誇り、当社の代表的な製品です。千両ナスは、中長形の卵型なすの代表的な品種で、愛知県内でも広範囲に栽培されていますが、特に一宮市丹陽町付近で冬場にハウス栽培される千両ナスは、皮が柔らかく中身が緻密で、漬物に最適な食材となっています。
 一方、古漬けは伊勢工場を中心に生産しており、通常、18~20℃で半年~1年程度漬けるものであり、漬ける期間が長いほど発酵効果は得られますが、高い塩分濃度が必要になります。近年の健康志向を反映して低塩化が好まれるため、脱塩して出荷する製品も増えています。当社の代表的な古漬け製品は福神漬で、年に1200トン程度が生産されており、一宮に本社を置くカレーハウスチェーンの各店舗でも使っていただいております。

高い顧客満足度を得るためには・・・

 漬物の味を左右する決定的な要因は、材料野菜の新鮮さであり、特に浅漬けにはその影響が顕著に現れます。そのため、材料野菜の大半は契約農家に生産を委託し、新鮮さと安定量の確保を実施しています。もちろん、リーズナブルな生産コストを実現することも必要であり、特に伊勢工場での産品等において、海外農家の生産野菜等を輸入して使用することも多々ありますが、そうした際にも生産農家への生産指導と直輸入体制の実現に、こだわりを持って取り組んでいます。
 食品メーカーとして、特に食の安心・安全の確保は最重要課題と認識しており、「きれいに洗う」ことを実践するため、野菜に優しい水と泡による瀑気洗浄や高圧洗浄を用いた材料洗浄と、生産ラインの衛生管理に努める一方、食品という製品の性格上、流通段階での品質管理にも責任を持てるよう、独自の物流システムを構築して対応を図っています。
 また、漬物という日本人の食生活に深く関わっている食品であることから、伝統の味を守るということも重要命題と認識しており、日々の品質管理に科学的な分析値と並んで、検査員による実食・官能試験も実施し、変わらぬ味の安定供給に努めています。

季節感をもった豊かな食文化の復活をめざして・・・

 漬物は元来、典型的な地産地消の製品で、地域の特産野菜を季節感をもってその地域で味わうことが、わが国の食文化でした。わが国の近代化の流れの中で、何らかの理由でこうした地域の特産野菜の栽培がなされなくなり、途絶えてしまった漬物も多々あります。こうした漬物を復活し、新たな技術も加えて、豊かな食文化を再生しようという取り組みを当社は進めています。その代表的な例に、伊勢タクワン、松坂赤菜、朝熊小菜(アサマコナ)があり、現在は地域のスーパーストア等で販売されるようになっております。
 この伊勢タクアンは、御園大根(長さ50cm程度の色白で肩は丸く、先が尖った大根)の塩分濃度を調整して、従来一年半程度かかっていた作成期間を半年程度に短縮できた製品、また松坂赤菜(皮が濃い赤色の小型のカブラで、秋から冬に収穫され、漬物にすると中まで鮮やかに赤く染まる)は、宅地開発等で栽培が途絶えたものの、近年栽培が復活した漬物製品、さらに朝熊小菜(伊勢市の朝熊山麓の狭い範囲で栽培されていたアブラナ科の青菜で、秋から冬にかけ収穫される)は、厳しい冷え込みと霜が柔らかく風味の増した漬物を作るといわれる漬物製品です。

地域の特産品に新たな味覚を

 当社では、西尾張の特産品である切干大根を、煮物とは違った形で残していきたいと考え、同じ愛知県のご当地グルメを代表する赤味噌を使った味噌味の漬物を開発して、昨年12月に開催されたT1グランプリ(地域の食文化「漬物」チャンピオン決定戦)に応募したところ、中部ブロック最高金賞を受賞することができました。この「名古屋流土手みそ切り干し」は、残念ながら全国グランプリは獲得できませんでしたが、漬物の新しい境地として、今後更に、商品化に取り組んでいく所存です。

インターネット時代の食品流通は・・・

 当社では、全国の漬物メーカー数十社と提携し、自社製品ばかりでなく、各地それぞれの風土の中で独自に発展してきた漬物を、全国どこの消費者にも提供していくというベンダー機能も果しており、この事業が全事業売上の半分を担うまでになっています。漬物のおいしさを、ひいてはわが国には漬物という豊かな食文化が存在することを、まず多くの人に広く知ってもらうことこそ、漬物業にたずさわる私共の使命であると考えています。

会社概要(取材当時)
  • 社名:三井食品工業株式会社
  • 創業:1925年5月10日
  • 資本金:1,200万円
  • 代表取締役社長:岩田孝逸
  • 従業員数:210名
  • 事業内容:漬物食品の製造加工販売
  • 本社:一宮市三ツ井1-10-8 TEL(0586)77-3535