共同研究促進事業(過去の共同研究事業)

平成12年度 研究成果

「透明・硬質な超はっ水性バイオミメティック皮膜の開発」

【研究リーダー】

名古屋大学理工科学総合研究センター 教授 高井 治 氏

【共同研究機関】

名古屋大学、(株)東海理化、市光工業(株)、伊藤光学工業(株)、(財)科学技術交流財団

【研究目的と概念図】

原料ガスをプラズマ状態にし、この活性なプラズマを利用して、気相中および基板表面での化学反応により薄膜形成を行う“プラズマCVD法”を用いて、超はっ水(*1)性皮膜を合成する。本方法では、ほぼ室温付近の温度で皮膜の形成が行えるため、プラスチックなど耐熱性に劣る材料へのコーティングも可能である。この合成プロセスにおいて、作製膜表面の微細構造と化学結合状態を厳密に制御する手法を確立し、可視光領域において無色透明で、かつ硬質な超はっ水性皮膜を、低温で大面積にわたり作製する技術を開発することを目的とする。

本研究では培養皮膚の生着率および治療効果を高めるため、遺伝子導入法を用い、より高性能な培養皮膚を開発することを目的とする。すなわち、移植する培養皮膚に抗菌作用および周囲組織の増殖作用をもたせ、移植部における皮膚組織の再生を期待するものである。本研究が完成した場合、全身熱傷などの広範囲皮膚欠損に対してより高い治療効果が期待できるばかりか、他の人工臓器開発への波及効果も大きく医療の一端を担うと考えられる。

超はっ水膜上の水滴膜の表面構造の拡大写真
超はっ水膜上の水滴(左)と膜の表面構造の拡大写真(右)

(*1)超はっ水・・・はっ水性は、材料表面に置いた水滴の接触角(ある面上に置かれた水滴表面の、面との接触個所の接線と面とのなす角度)によって評価され、一般に、接触角が150 o以上の場合に“超はっ水性”と呼ばれている。

(*2)バイオミメティック・・・生物の示す優れた機能を模倣すること。本研究では蓮や里芋の葉の表面構造を模倣することにより、水滴接触角が150 oを越える超はっ水性皮膜を作製する。

【研究成果の概要】

1. 超はっ水性皮膜の作製と硬質化条件の決定

トリメチルメトキシシラン (TMMOS) および二酸化炭素 (CO2) を原料としたマイクロ波プラズマCVD法と、有機シラン分子の熱CVD法とを併用することにより、可視光域で透明かつ機械的特性に優れた、蓮の葉表面と同様の微細凹凸構造をもつバイオミメティック超はっ水性皮膜の成膜条件を見出した。また、成膜装置の改良、各成膜条件の最適化により、成膜面積を、約20 cmφまで大面積化することに成功した。自動車用ドアミラーや眼鏡用レンズなど、実際に製品への成膜も行った。

はっ水膜コーティングしたレンズ
はっ水膜コーティングしたレンズ(左)とそうでないレンズ(右)。(左)は水滴が全くつかず曇らない。

2.超はっ水性皮膜の特性評価

以下に示すように

(1)機械的特性評価

ナノインデンテーション評価およびナノ摩耗評価の結果、ナノ硬度2.5 GPa,ナノ摩耗深さ60 nmと、機械的特性が飛躍的に向上した。さらに、実用的な機械的特性評価を行った結果、往復摩耗試験結果において、3000回摩耗試験後にも高はっ水性(接触角130o)を維持できることがわかった。特に、アクリル基板上に堆積した皮膜では、摩耗試験後の摩耗痕が目視で全く観察されないという実用上極めて興味深い結果を示した。

(2)耐久性および耐候性評価

耐アルカリ性試験を除き、著しい水滴接触角の低下は見られなかった。

(3)光学的特性評価

ガラス基板上に成膜した皮膜では、ガラスより低い屈折率を有するため、干渉効果により光反射率が低下し、光損失量が低くなった。皮膜そのものは可視光領域で光吸収を起こさず無色透明であった。高分子基板上では部分的に微小クラックが生じ、散乱による光損失が増大した。どの基板上の皮膜も、耐候性試験後の光学的特性の変化は見られなかった。

3 その他の研究成果

(1) 開発した透明・硬質な超はっ水性皮膜の微細凹凸構造を、電鋳法およびモールド法を併用したプロセスにより、高分子材料へ転写する手法を開発し、ポリスチレン、シリコーン表面への転写を検討した。この方法により、水滴接触角140oの高はっ水性を保持するポリスチレンシートの作製に成功した。(下図参照)

(a)PS相除去後の高分子相分離膜の微細構造AFM像。<br>(b)(a)の構造を転写したシリコンゴムの微細構造のAFM像。
(a)PS相除去後の高分子相分離膜の微細構造AFM像。
(b)(a)の構造を転写したシリコンゴムの微細構造のAFM像。

(2) 超はっ水性皮膜の応用の展開を検討した。本研究で開発した超はっ水性皮膜は、金属、ガラス、半導体以外に紙、プラスチック、陶磁器など、さまざまな材料へコーティングできることがわかった。実用化への展開として、自動車用部品、光学素子等の新製品開発への知見を得ることができた。

(3)超はっ水性皮膜の表面微細凹凸構造に由来する広い表面積に着目し、化学センサー素子としての応用可能性を検討した。水晶振動子上に超はっ水性皮膜を堆積させ、各種有機分子気体に曝露したところ、有機分子の表面吸着に伴う振動数変化が観察され、この素子がガスセンサーとして応用可能であることがわかった。特に、皮膜が超はっ水性であることから、環境湿度の影響をほとんど受けずにガスを検出できるという実用上きわめて有用な特色を有する。

本研究の主な業績
本研究の主な業績
論文(件) 学会発表・講演
16 33
特許出願の紹介
特許出願の紹介
はっ水性皮膜、およびその形成方法 2001.12.18出願(特願2001-177046)
化学センサ 2002.08.03出願(特願2002-233310)
パターン形成体 2002.09.05出願(特願2002-260405)

【成果発表会の開催】

本共同研究の成果を広く内外にPRすることを目的に平成15年10月7日(火)において成果発表会を開催しました。当日は産業界、学界、行政等から約80名の出席者を集め、成果報告が行われ、盛況に行われました。
なお、本成果については、当日及び翌日のNHKでオンエアーされました。

高井教授による講演
高井教授による講演
井上助教授による成果報告
井上助教授による成果報告
発表会風景
発表会風景

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